2011年6月12日
プライドって言葉は少し苦いんですねいわれると。わがままだったり自分勝手だったり人によっては別にそんな印象受けないのかもしれないけれど。仕事にしても何にしても造っているものに対してこだわると「ああプライドありますもんね」という人がいますな。なんとまあ魔法の言葉。多くのばあい積極的な意味に聞こえないんです。「いらないプライドがありますもんね」てな具合で。面倒な耳。
日常会話に出てこなければいいなと思ったり、プライドじゃなくて心意気とかにすればいいんじゃなかろうか、言葉の響き的に消極的な感じがないし「心意気がありんすからね」とかおっしゃっていただければ、それはもうご隠居に話しかけている感じでかまいませんし。とにもかくにもご隠居、梅雨でやんすなという感じでさらりとね。
雨の季節には、夢の酒を聴きたくなりやんす。しとしとしっとりな雰囲気を身にまといながら寄席に行きたくなりやんす。ああしかしあれは雨とはいえこの季節の噺ではないのです。ええとどの季節の噺でしたっけ。
うちの実家は、数年前まで目の前が田んぼでした。いまの時期には雨にしばかれてGW中に植えた苗がカエルの住処としてすくすく育っていました。田んぼの向こうには民家が一軒、その向こうにはまた田んぼ、さらに向こうにも民家が数件、そしてまた田んぼ。夏になると稲とともに育った緑の両生類がただひたすらに大合唱を繰り返すのでした。ずいぶん昔のはなしです。
目前にあるのは民家だけでなく、田んぼだけでもなく、畑が間に挟まっていてその脇に小屋がぽつねんとありました。それはなんというか昔のSF映画にでてくる火星に建てた温室のような非常にチープな銀色の小屋で、中にはエロティックな自販機がありました。自販機自体も銀色に発光していた記憶があります。なんであんなに照らす必要があったのかわかりませんが、むろん飲料水が出てくる自販機とは違っていて、より無機質でなにか唐突で乾燥していたように思います。とにかくカラっからに乾いていて、あの銀色の空間は子供の世界には存在しないものとされていました。近寄ってはいけなかったのです。
時刻は真夜中です。子供が出歩いていい時間ではありません。でも小屋が気になって気になって眠れませんから出歩くわけです。田んぼの端っこをずんずん進み畑の中を突っ切ってそのままの勢い入り込んだんですね、乾いた銀色、小屋の中。入ったとたんに全身を照らし出されてエロティックはぎらついてるし外はもうカエルの王国でなんのことやらわかりません。
ただ中を通過して小走りで逃げ帰って、なにから逃げていたのか、それはカエルの王様でもお化けでも大人でもなくて恥ずかしいからでもなくプライドがあったからでもなしにわくわくから逃げていたんですなあ。でも追いつかれてそのまま一緒に布団にもぐりこまれてしまいました。わくわくってやつはとかく疲れをもよおしますから、布団に一緒にくるまって一緒に夢も見ずに眠ったのだろうと思います。そういう季節。

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